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横浜家庭裁判所 平成6年(家)3583号 審判

申立人 村西今日一

相手方 石沢麻依子 外1名

主文

相手方らは、申立人に対し、平成8年5月1日以降毎年1回石沢和広(昭和57年10月9日出生)とその通学先の学校の夏季休暇中に1日間面接交渉させよ。

申立人が、相手方らに対し、石沢市子(昭和61年7月22日出生)と面接交渉をさせることを求める申立てを却下する。

理由

1  本件は、申立人が、相手方らに対し、申立人と相手方石沢麻依子(以下「相手方麻依子」という。)間の長男石沢和広(以下「和広」という。)及び長女石沢市子(以下「市子」という。)と年1回程度面接交渉させるように命じる審判を求めるものである。

2  記録中の資料によれば、〈1〉申立人と相手方麻依子(旧氏多和田)は、昭和57年3月23日婚姻の届出をして婚姻し、双方間に長男和広(昭和57年10月9日出生)及び長女市子(昭和61年7月22日出生)が出生したが、申立人が転職を繰り返し、経済的に不安定であったことに加え、相手方麻依子と同居していた申立人の母との折り合いが悪かったことから、平成5年5月24日未成年者らの親権者を相手方麻依子と定めて協議離婚の届出をして離婚したこと(ただし、相手方麻依子が未成年者らを連れて申立人方を出たのは同年7月下旬のことである。)、〈2〉相手方麻依子は、離婚後に知り合った相手方石沢栄光(以下「相手方栄光」という。)と間もなく同棲するようになり、同年11月25日婚姻の届出をして婚姻をし、未成年者らも、同年12月2日相手方栄光と養子縁組の届出をしてその養子となったこと、〈3〉申立人は、相手方らに対し、実父として和広及び市子が無事成長している様子を確かめたいとして、年1回程度未成年者らと面接交渉させるように求めているが、相手方らは、申立人と相手方らが対面すること自体希望しておらず(なお、相手方らは、相手方栄光が過去に服役した事実が未成年者らに知れることを恐れている。)、現在未成年者らが相手方らと落ち着いた生活を送っており、申立人との面接交渉により未成年者らを動揺させたくないとして、面接交渉に強く反対していること、〈4〉現在、和広は中学校2年生(13歳)であり、市子は小学校4年生(9歳)であるが、未成年者のいずれも心身ともに健康であり、相手方栄光と未成年者ら間には良好な親子関係が形成され、安定した生活をしており、相手方らによる未成年者らの監護教育上特に問題とすべき点はないこと、〈5〉和広及び市子は、申立人との面接交渉を拒絶まではしないものの、相手方らの面接交渉に反対の意向を汲み、これを積極的には望んでいないこと、〈6〉なお、相手方らは、申立人にその住所を秘匿していたが、申立人は、本件申立て後、これを調査した上、相手方らの了解を得ないまま、平成6年6月と同年10月の2度にわたり和広及び市子と面談しており、未成年者らは、その際、申立人から相手方らに面接の事実を秘匿するように言われ、申立人と面談したことに心理的な負担に感じていること、が認められる。

ところで、婚姻中の父母は、共同して未成熟子の監護教育に当たるが、離婚後にあっては父母のうち親権者となった親(以下「親権者親」という。)のみが子の監護教育に当たることにならざるを得ないところ、子の福祉という見地からは、父母のうち監護教育を担当しない親(以下「非親権者親」という。)も、可能な限り親権者親による未成熟子の監護教育に協力することが重要であり、このため、非親権者親と未成熟子が接触・交流の機会を持つことが望まれることから民法上明文の親定はないけれども、子の監護に関する処分の一環として離婚後の非親権者親による未成熟子との面接交渉が肯定されているところである。しかし、この面接交渉の目的及び性格からすると、その実施によって子の心身の成長上好ましい結果がもたらされる場合でなければ、これを肯定すべきではないといってよく、特に、離婚に至った原因・経緯等から父母間の対立が激しく、親権者親が非親権者親による面接交渉に強く反対している場合にあっては、親権者親の意思に反する面接交渉が強行されることにより親子間に感情的軋轢等が生じ、これによって子の福祉を害する事態が想定されることから(とりわけ、未成熟子が低年齢であるとか、心身に障害をもっているとかいった場合には、親権者親の協力なしには円滑な面接交渉が事実上不可能であるため、親権者親の意思に反する面接交渉を強行することによってもたらされる不利益が大きい。)、親権者親の意思に反した面接交渉は、例えば、進学問題など、子の監護教育上親権者親が非親権者親の協力も得て解決すべき重要な問題が発生しており、これに適切に対処するには親権者親の意思に反しても非親権者親に子と面接交渉させるのでなければ子の利益を十分に保護することができないといった、特別の事情が存在すると認められるときでない限り、これを回避させるのが相当であるといえる。もっとも、子の年齢、その他心身の成長状況からして子が単独で非親権者親と面接交渉することが可能である場合にあっては、親権者親が反対であっても、面接交渉によって子の福祉が害されるおそれは比較的少ないといってよく、非親権者親が不当な動機に基づき面接交渉を求めているような場合を除き、原則としてこれを肯定することができる。

これを本件についてみるに、相手方麻依子は、申立人と離婚した後、相手方栄光と再婚しており、離婚の経緯からすると、相手方麻依子が面接交渉の機会に申立人と対面することを避けたい心情であることは理解しえないではなく、その後相手方栄光と和広及び市子が養子縁組をし、双方間に新たに親子関係が形成され、現在未成年者らが安定した生活を送っているとみられることからすれば、実父として我が子の無事な成長ぶりを確認したいという理由だけでは、相手方らの反対の意向にかかわらず申立人の面接交渉を認めることが子の福祉を図るうえで必要不可欠な要請であるとまでは認め難い。そして、市子の場合、まだ小学4年生であり、十分な分別心をもっていないとみられ、市子単独で申立人と面接交渉させることには疑問が残る上、市子の年齢、心情等からすると、面接交渉の内容・態様いかんによっては心理的な動揺や混乱を招くおそれがあると認められるところ、先に認定した事情の下で相手方らの協力がなくとも申立人と市子の面接交渉を肯定するのでなければ子の利益を保護するに十分でないというべき特別の事情が存在するとまでは認められない。これに対し、和広の場合、既に中学2年生であり、相手方らの協力がなくても単独で申立人との面接交渉が可能であり、申立人と相手方麻依子の離婚やその後の相手方同士の再婚につき未成年者なりにその事情を理解できる年齢に達しているとみられることのほか、申立人が面接交渉を求める理由が前記のとおり我が子の無事な成長ぶりを確認したいというものであって、親子間における自然の心情として理解しえないものではないことからすれば、申立人の求める年1回程度の面接交渉によって子の福祉を害する結果を招くに至るとまでは認められない。そうであれば、申立人が和広との面接交渉を求める申立ては理由があり、本件にみられる諸般の事情を考慮すると、平成8年5月1日以降毎年1回和広の通学先の学校における夏季休暇中に1日間面接交渉させるのが相当であるが(その具体的な日時、場所及び方法については、申立人が和広の意向を踏まえて定めるべきものである。)、市子との面接交渉を求める申立ては却下すべきものである。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡邉温)

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